もうかなり以前のことですが、石川県の旧 鳳至郡柳田村に合鹿椀と呼ばれる、江戸時代以前から作られていた古椀があり、私はその写真を見て衝撃を受けました。
そのお椀には、素朴さの中に凛としたたたずまいがあり、それでいて何とも言えない力強さを感じました。
1986年ごろ、趣味の登山に明け暮れ、いつか山や自然の中で暮らしたいと思いをめぐらしながら、どこか移住者を受け入れてくれるような山村はないかと漠然と探していました。その時出会ったのが、石川県の柳田村の特別村民制度。村役場に入会の案内資料を取り寄せた中に、合鹿椀の小さな写真と紹介文がありました。その写真のお椀にこころ魅かれ、漆器の産地である輪島市に近いことから、木の器を作ってみたいと言う思いが重なって、1986年12月に柳田村特別村民となりました。
それから合鹿椀のことが気になり、いろいろ調べましたが、まだ当時はインターネットなどほとんど無い状況で、わずかに紹介された本を頼りに合鹿椀の世界を知るだけでしたが、その魅力に魅かれていきました。
恥かしながら、柳田村特別村民になりましたが、結局一度も柳田村を訪れることもなく、ましてや本物の合鹿椀を目にすることもなく、柳田村から送られてくる物産や村の広報を頼りに、村への思いをはせるだけに終わってしまいました。
しかし合鹿椀との出逢いが、自分で木の器を作るひとつのきっかけとなり、いつか合鹿椀のようなお椀を作ってみたいと強く思うようになりました。