もう20年ほど前になりますが、木の器作りに興味を持ち始めたころ、百貨店の手作り品の実演販売で、新子薫さんの栗の木で作った杓子に出会いました。栗の木を独特の刃物で勢い良く削り、ざっくりと削られた跡が美しく、それでいて機能的な杓子にひきつけられました。
この杓子は何も塗装はしない素のままで、栗の木は水に強く丈夫なため、使い続けると、黒く渋い色あいに変わり、木の道具の良さを味わうことができます。
新子薫さんは、奈良県吉野地方で作られていた、茶粥などをすくう杓子を作る木地師をされておられた方ですが、戦後、プラスチックや金属の杓子の出現に需要が激減したため、木地師の方はほとんどおられなくなる中で、おひとり続けてこられた方でした。
杓子以外にも、皿や鉢などどれも、栗の木の刳り物で、よく切れる刃物で、澱みなく入れられた刃物の跡が美しく、とても魅了的です。
ある日、新子さんの作品を販売されている奈良県内お店で、新子さんの作品はほんとにいいものですねとお店の方と意気投合していると、売り物じゃないけどと言って、店の奥から、新子薫さんが彫られた、神楽で使うような栗の木のお面を見せてくださった。これがまたすごく良くて感激しました。
写真の上の杓子は、私たちが長年使っているものですが、傷みも無く、独特の色合いになっています。
写真の下の大きな杓子は、時代や作者は定かではありませんが、古道具屋で買ったものです。同じ吉野の木地師の方が作られたものだと思います。使い込まれて渋い味わいになっています。
現在はお孫さんがその伝統を受け継がれておられるようです。