角偉三郎さんの器

2005年に65歳で亡くなられた輪島塗の作家、角偉三郎さんの器を、ご縁をいただいたお客様からいただきました。
漆塗りの産地、輪島の漆塗りの器作家の方で、高い技術と表現力で、日展入選17回、特選受賞の経歴をお持ちの方ですが、晩年は、卓越した技術を持たれながら、一方で素手で漆を塗るなど、伝統的な輪島塗を超越した前衛的な漆塗り表現がすごくて、私にとってはなんとも魅力的な、あこがれの漆の器作家の方でした。
クラフトの公募展、朝日現代クラフト展の1999年と2000年の審査員のお一人が、角偉三郎さんで、ここで入選したいという思いで応募し、角さんが一票を投じていただいたかどうかは定かではありませんが、私の漆塗り作品が両年入選できたことが、ささやかな思い出です。
そんな角偉三郎さんの器が欲しいと、何度も購入を考えては、その値段に躊躇してあきらめていたのですが、角さんが亡くなられてからは、ますます購入も難しくなり、遠い存在となっていました。
先日、ご縁をいただいて、お客様からもう断捨離をするので、この器の良さを一番理解してくれる人に、この器を引き継いでほしいと仰られ、思いがけず、角さんの器をふたつ渡してくださいました。
角さん特有の表現の、なんとも味のある美しい大きなお椀でした。
今度は、あなたが育ててくださいと。
感謝の思いを大切に、愛用していきたいと思います。

土のミュージアム SHIDOを訪問

今日は、兵庫県淡路市(淡路島)にある、「土のミュージアム SHIDO」に行ってきました。
ミュージアムは、壁材の専門店の近畿壁材工業株式会社さんが今年開設されたのですが、工房えらむの建物を廃材で建築する際に、工房の壁材となる漆喰をおよそ17年前に購入させていただいた、壁材店さんなのです。
そんな「土のミュージアム SHIDO」のインスタグラムに私の作ったお盆で、お茶を出されている投稿を見て、すごいご縁を感じて訪問させていただきました。
17年前、私の工房を建てる最終段階で、壁材となる漆喰の購入の仕方が、素人の私には判らず、最終的にたどり着いたのが近畿壁材工業さんでした。直接会社へ買いに行くと、若い社長さん夫妻が、素人の私たち夫婦を丁寧にもてなしてくださり、サンプルなども沢山いただいて、本当に気持ちよく対応していただいた印象が強く残っていました。
近畿壁材工業さんのおかげで、私たちの工房も無事完成となり、木の器製作も本稼働に至りました。そしてこのミュージアムで、図らずも私の作品を販売店で購入して、使用していただいていると言う、思いがけない巡りあわせに、ただただ驚くばかりです。
社長さんご夫妻も私の訪問と、その経緯をとても喜んでくださいました。
「土のミュージアム SHIDO」は、地元の左官職人さんで、テレビの「情熱大陸」や「プロフェッショナル仕事の流儀」でも紹介された久住有生氏の土関係の施工によるもので、様々な土の表情を表現し、とても緊張感のあるアート的空間となっています。
屋上からは、海を一望できる素晴らしいロケーションです。機会がありましたら訪問されることをお勧めします。

土のミュージアム SHIDO  兵庫県淡路市多賀2150

山の日より

昨日は、2022年の山の日で祝日でしたが、工房で仕事をしていました。
私が、地域の社会人山岳会に所属して、登山に熱中していた若いころは、山の日と言うのは無かったのですが、お盆の前後は、ほとんど山にいる生活でした。
サラリーマン生活をしながら、年間60日ぐらいは、山に行っていたと思います。
夏山、冬山、岩登りと、ほとんど若いころのエネルギーの発散場所が、山登りだったのだと思います。そしていろんな山の本を読んでいました。
山登りに熱中する、個性的で、独特の価値観を持った不思議な人たちが、面白くて、そんな人たちと一緒にいることが楽しかったのだと思います。会社での将来性より、ヒマラヤ登山が重要と、長期休暇を取ってヒマラヤ遠征に行く人。ネパールのカトマンズに宿屋を作ると言って、脱サラして行った人など。今ではそう珍しくはないかもしれませんが、こうした人たちから、いろいろ影響を受けたことは間違いないと思います。
私も年齢とともに、山から遠ざかり、山や自然とともに暮らすことにあこがれを感じ、50歳前半で脱サラし、今に至っています。
最近は、恥ずかしながらほとんど山には行っていませんが、一応、今の自然素材を使ったもの作りの生活は、登山の延長線上ということと位置付けて、山の日も休みなく仕事をする日々です。

クラフトデザイン協会の解散

私が2007年より所属しておりました、日本クラフトデザイン協会(JCDA)は、2021年6月21日をもって解散いたしました。
1956年の創設以来65年にわたり、公益法人としてクラフトデザインの普及を図り産業の発展と人々の生活文化の向上に寄与することを目的に活動を続けておりましたが、会員の減少等のため法人運営の継続が困難となり、残念ながら解散することになりました。
木の器作りを職業としたい、プロになるにはどうしたらいいかと模索していた時に見に行った、日本クラフトデザイン協会が主催するクラフトの全国公募展「日本クラフト展」の作品に心奪われ、この公募展に入選するレベルになれば、プロになれるんじゃないかと思うようになり、入選を目指しました。
そして何度もこの公募展を見に行き、作品を作り、2001年に念願の初入選を果たすことができました。以後5回の入選の後、クラフトデザイン協会の会員に推挙していただく機会をいただき会員に入会しました。
私はまだそのころは、まったくの素人でしたが、会員のほとんどは有名なプロのクラフト作家の方ばかりで、美術大学の教授や専門学校の講師、世界的に活躍されておられる方も沢山おられ、木の器の世界のとても有名な方も在籍さていました。私は、会員になることにあこがれてはいましたが、圧倒的なレベルの差を感じ、かなり場違いなところに入ったものだと思いました。
それでも会員の方々は皆とても優しく、2012年に脱サラしてプロになった時には、なかなか仕事が無いだろうと言って、グループ展や展示会に誘っていただいたり、ワークショップの仕事をお世話いただいたりと、まったくの独学で素人上がりの私を親身に支援してくださいました。
65年の歴史ある公益社団法人日本クラフトデザイン協会が、私の時代を最後に活動に幕を下ろすことになったことは、とても残念なことですが、いろいろなジャンルの第一線で活躍されている、多くの作家の方と知り会うことができ、いろいろなアドバイスをいただき、展示会などをご一緒できたことは、現在の活動の財産となっています。

書籍「日本のクラフト もの くらし いのち」

先日、「日本のクラフト もの くらし いのち」と言う本を購入しました。
この本は、私が現在所属している、公益社団法人日本クラフトデザイン協会の創設30周年を記念して、出版された本です。
実際この本が出版されたのは、1986年です。
公益社団法人日本クラフトデザイン協会は、1956年に創設され、1976年に社団法人として許可を取得し、2013年に公益社団法人としての認定を受けました。クラフトデザインの普及を図り、産業の発展と人々の生活文化的向上に寄与することを目的に、半世紀近く日本のクラフトデザインの中心的役割を担い、活動を行っております。クラフト関連の組織として唯一法人化された全国組織で、スタジオクラフトマンや伝統的地場産業に関わる生産者を中心とした正会員、賛助個人会員、賛助法人会員、会友により構成されている組織なのです。
私が、当協会が主催している公募展「日本クラフト展」に5回の入選を果たして、会員に推挙いただいたのが、2007年なので、かなり古い本ではあるのですが、私がクラフトに携わる以前の、日本のクラフト運動の初期から黎明期にかけての、活動を記した貴重な本だと思います。
本には、克明に当時クラフト製作にかかわっておられた方々の作品や証言が、沢山記録されていて、現在著名な作家の方々がこの協会で活動されていたことが良く分かります。
この本を、なぜ今買ったかと言うと、65年の歴史を持つ日本クラフトデザイン協会が、役割を終え、今年で解散予定となり、在庫の書籍が、安く販売されたと言う理由です。
協会とのこれまでの関わりについては、また後日詳しくお話したいと思いますが、とても残念なことです。

春蘭を頂く

工房に時々立ち寄られる隣町の鍛冶師さんから春蘭(シュンラン)をいただきました。
鍛冶師さんは、木工業界では伝説的と言えるほどの、鉋や鑿を造られる方ですが、山野草にも造詣が深い方で、これまでもいろいろ山野草についても教わってきました。
鍛冶師さんから電話で、春蘭を植えへんかと連絡があり、私も春蘭は、好きな花だったので、二つ返事でいただきますと。
庭のかたずけで、取り除くことになった沢山の春蘭の株が、私の工房の敷地にやって来ました。
春蘭は、北海道から九州に広く分布し、日本を代表する野生ランで、シンビジウムの仲間だそうで、主に里山や人里に近い山地の雑木林などに自生し、古くより季節の花や祝いの花として親しまれてきました。
春蘭は、ランとしての派手さはなく、里山に自生する、清楚な感じが魅力的です。上手く工房の日陰に根付いてくれるといいのですが。
そして、鍛冶師さんから春蘭にまつわる頂きものをもう一つ。春蘭の花を塩漬けしたもの。
塩漬けした春蘭の花を白湯にいれると、湯呑の中で、きれいに花が開きます。春蘭の香りと塩味のきいた飲み物を美味しくいただくことができます。
鍛冶師さんとは、いつもこんな感じで、感謝に堪えません。

私の好きな旅の本 その1

コロナ禍で、海外はもとより、国内も自由に行き来することが困難な昨今ですが、とても旅に出たくなります。
ずっと以前に読んだ旅の本ですが、本で少し旅心地を味わってみてはと、私の個人的お勧めの本を紹介します。本は、「ごめんねパパ 泣き虫アコの冒険旅行」著者:三保 明子(トラベルジャーナル社、1992年発行)
イギリスの旅行会社の企画する、ほぼ世界最長のバスツアーに参加する女性の体験談。
トラックの荷台を改造したバスに、世界中から集まった参加者とともに、イギリスからアフリカ経由でネパールを目指してテント泊と自炊をしながらのバス旅。
イギリス・ロンドンを出発しヨーロッパを南下、地中海を渡ってアフリカ・モロッコへ、アフリカ大陸を南下し、サハラ砂漠を超えてニジェールから中央アフリカへ、ザイールからアフリカを横断し、タンザニア、ケニアを経由してアフリカを北上、エジプト、ヨルダン、イスラエルからアジアへ、トルコ、イラン、パキスタン、インドそして終着のネパール・カトマンズと言う超長旅。
キャンプも経験のない筆者が、途中脱落者も出る長旅を、しなやかに旅する姿が印象的。
それにしても、コロナ禍で、海外との行き来は、ほとんど不可能となり、今では、政治不安や民族紛争で往来の難しい国々を颯爽とバスが走り抜ける、過去の良い時代もうらやましい。

 

世界一周ヨットレース・ヴァンデ・グローブ2020ゴールへ

昨年11月のブログに投稿して、応援していた世界最難度のヨットレースが最終章を迎えました。
2020年11月8日に、フランスの港をスタートして、単独無寄港無補給世界一周ヨットレースVendée Globe 2020(ヴァンデ・グローブ)は、80日目にトップのセーラーがゴールしました。個人的に多少の縁あって、我がことのように応援していた、DMG MORI SAILIN TEAMの白石康次郎さんは、レース序盤にメインマストが嵐で破れるなどのアクシデントを乗り越えて、2月11日に、16位/出場全33チーム(内途中棄権8艇)、記録:94日21時間32分56秒で無事ゴールされました。
コロナ禍で、世界中を自由に行き来することがままならない状況下で、地球一周を舞台に展開されるレースのなんと爽快な事よとばかりに、3ヶ月間、ほぼ毎日ヴァンデ・グローブ2020のホームページを見ていました。各ヨットから送られてくる、リアルな映像にコロナ禍での閉塞感を癒してもらいました。
レースは、まだ続いていますが、33艇中8艇が、故障や破損、転覆でリタイヤするなど、スポーツとは言え、命を懸けた冒険にほかなりません。順位にかかわらず、厳しい航海を乗り越えて、ゴールの港に帰還したヨットを迎え入れるシーンは、とても感動的でした。
地球の風、潮流、気象条件を頼りに、世界一周をすると言う至って原始的な行為と、いかに航海を上手くコントロールするかと言う、頭脳的戦略に魅せられた3ヶ月でした。

最近買った本

最近買った本の紹介です。
工芸でもクラフトの本でもない本なのですが、「Rhapsody in John W.Lennon」立川直樹 著、40年前に亡くなったミュージシャン、ジョンレノンの40年の生涯を追った旅の記録。
ジョンレノンはとても好きなミュージシャン。ビートルズ時代も好きでしたが、それ以上にビートルズを解散して、ソロで活動してからのジョンが、何より素晴らしい。
ビートルズ時代は、絶大な人気を得ていましたので、ソロになってからも、当然のように一挙手一投足が注目をあび、莫大な収入を得られるシンガーではあるのですが、アメリカに移住した彼は、非常にピュアな気持ちで、お金儲けのための歌作りではなく、戦争や差別のない社会、平和な世界をメッセージに込めて歌い続けていました。それは、やがて、ジョンの平和へのメッセージに共感するアメリカ市民が起こす運動が大きなうねりとなったことに、危機感を持ったアメリカ政府が、ジョンを国外に退去するよう命令を出すまでに至ると言ういきさつがあります。
世界的に有名になれば、当然のように注目をあびることで、収入を得られるのですが、彼はそれを差し置いて、一貫して平和な社会を作ることを歌にすることに情熱を傾けた、杞憂な本当に素晴らしいシンガーだったと思います。
残念ながら、40年前の12月8日に、変質者に射殺され40歳で生涯を終わることになりました。
自分の作品にメッセージを込めて、多くの人に伝えることの素晴らしさを教えてもらったように思います。
私も、脱サラ以前は、ささやかな自然保護へのメッセージを込めた作品を作って、コンペなどに出品していたこともあるのですが、脱サラ後は、生活の糧となる作品とは、と言ったことばかり考えての作品作りの日々です。
いつか作品にしっかりメッセージ込めて、共感してもらえる人のところに届けることができるような作品作りができるようになればと思います。

 

土人形の魅力

古いもの好きが高じて、古物商の許可を取得して、古道具や古民具も工房内で販売しているのですが、最近入荷した、地元兵庫県丹波地方で作られた稲畑人形が気に入っています。
稲畑人形は、江戸末期に作り始められたとされていますが、現在その伝統を引き継がれておられるのは、お一人だけだそうです。
写真の土人形は、土人形の中でも定番の天神さん、いわゆる菅原道真をかたちどったものですが、素朴さの中にも気品が感じられる、好きな人形です。
菅原道真は、学問の神様として有名で、かつては子供の学業向上を祈って贈られていたようです。
私も学業向上にあやかって、天神さんの土人形はすでにコレクションとして大小3体所有しているのですが、どちらかと言えば、そのほのぼのとした雰囲気が好きで手元に置いていると言うところです。そんな訳で、工房の食器棚の上にもお気に入りのいろいろな土人形が、少しづつ増えています。
土人形は、型にはめて成型された粘土を素焼きしたものに彩色されただけのものですが、人形内は空洞で、壊れやすく危ういところも素朴さと相まって、愛しさを感じるところがあります。
今や人形と言えば、あらゆる素材で、多種多様なものがありますが、この土人形のような、とても簡素な造りで、人々の思いを受けとめる人形の存在も魅力的と言えると思います。
明日から、3日間工房Openします。作品より充実してきた古道具をよろしければ冷やかしにお出でください。