漆の美しさ

木の器を作り始めたずっと以前は、塗装にはニスやウレタンなどを塗っていましたが、あるとき透明の漆の塗られた家具を見て、なんて綺麗だろうと衝撃を受けました。
それからどうしても自分の作った器に漆を塗ってみたくて、漆を塗っているという方に、透明の漆を塗っては拭き取る作業を繰り返し、木地を美しく引き立たせる、拭き漆と言う塗り方の基本的な手ほどきを受け、自分で塗り始めました。しかし実際に自分で塗ってみると、漆にかぶれ、思うように乾かない、発色が悪いなど失敗から試行錯誤を繰り返しました。漆と言う樹液を塗ることは、化学塗料を乾かすという行為とは全く異なり、酵素と言う生き物を固まらせる行為で、うまく付き合えるようになるまでかなり時間がかかりました。しかし木との相性は抜群で、固まると堅牢で自然の産物のため安全であり、何よりも木の個性を美しく引き出す、すばらしい塗料だと思います。

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欅に拭き漆塗り

お盆を彫る

お客様からのご依頼で、栗の木で丸いお盆を作っています。私の木の器づくりは、材を手で彫って作ります。木工ろくろを持っていないので、この丸いお盆も材料をバンドソーで丸くカットし、のみで内側を彫って作ります。木工ろくろを使うと正確な丸いお盆ができますが、私は手で彫ることが性に合っていて、スローな仕事をやっています。
以前、少し食器の勉強のためにと陶芸を習っていましたが、私の作る木の器は、陶芸で言うところの、「手びねり」の作品のようなもので、焼き物にある指の跡がのみ跡と言ったとことでしょうか。このちょっとしたゆがみのようなものが私には落ち着くのかと思います。

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木の器づくり

サラリーマンをしていたころは、社会人山岳会に所属し休日のほとんどを山で過ごす日々を送っていました。そんな日々を過ごす中で、いつも山の見えるところで生活したい、木や森に囲まれて暮らしたいと思うようになり、いつかそんな生活ができないかと考えるようになりました。
山の本ばかり読んでいた時に、工業デザイナーの秋岡芳夫氏やオークビレッジの稲本正氏の本と出会い、木の道具の素晴らしさや木と暮らすことの良さを知り、私が漠然と考えていたことがここにあるような気がしました。何か自分でも木で何かできないかと言う思いから、機械や場所がなくても木を手で彫って器をつくることならできるのではないかと言う思いからスタートしたのが、木を手で彫る刳りものの器づくりでした。
それから多くの方の作品に触れ、多くの方のアドバイスや指導を受けながら、ひたすら試行錯誤をくりかえし木の器づくりを続けてきました。とても遠回りをしましたが、昨年サラリーマンを退職し、刳りものの木の器づくりを職業として生活することをスタートしました。

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工房の建設

工房は廃材を使い、工房を設計していただいた一級建築士の方と一緒に3年半かけて建設しました。
個展会場のオーナーだった建築士の方に安く工房を建てたいと相談したところ、廃材を使って自分で建てることだねと言われたことがはじまりでした。廃材を使って家を建ててくれる大工さんはなかなかいないから、自分でやるしかないねと言われ、結局、建築士の方が解体業者から集めてこられた廃材を基に設計図を描かれ、私と普段仕事で大工仕事はされていない建築士の方とで休日を利用して少しずつ建設することにしました。
私が仕事帰りに山積みの廃材の古釘を抜くのに3か月要するところから始まり、基礎工事、柱の刻み、壁塗り、建具工事と出来上がるまでに3年半かかりようやく完成しました。木組みと込み栓を多用する在来工法を中心に遊びごころのある建物ができたことに満足しています。これもすばらしい建築士の方との出逢いがあったからでしょうか。

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